1.初めに
このレポートを書くにあたり、大槻先生の講義の中で、2本のビデオを見せていただいた。内容は鬱病に関するものと、アスベストに関するものだった。
今回、自分はアスベストに関するレポートを作る。
アスベストは日本語で言う石綿である。耐久性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの特性に非常に優れ、経済面でも安価であるため、わが国で「奇跡の鉱物」とされ、建設物や、電気製品、自動車、家庭用品など様々な用途に広く使用されてきた。
しかしながら、空中に飛散したアスベストを吸い肺に吸入すると、約20年から40年の潜伏期間を経た後に肺癌や中皮腫のなどの疾患を引き起こす確率が高い為、今では「静かな時限爆弾」などと恐れられている。
高度成長期のわが国では、建物の断熱保熱を目的などにアスベストが大量に消費されていた。そのため、その潜伏期間が終わる近年にアスベストが原因で発生したと考えられる肺癌や中皮腫による死亡者が増加している。
2.選んだキーワード
・アスベスト
・肺線維化
3.選んだ論文の内容と概略
・成人病と生活習慣病 36巻7号 P740〜744
アスベスト肺癌 (石綿肺癌) 中野孝司
アスベストと関連の深い悪性腫瘍には、中皮腫と石綿肺を先行病変とした肺癌がある。アスベスト関連疾患の基本的な病態は線維化と癌化であるが、アスベスト繊維に対する感受性は気管支上皮細胞に比し中皮細胞が明らかに高い。よって後者に由来する中皮腫は、高濃度だけでなく低濃度でのアスベスト曝露でも発生する。アスベストによる繊維増殖性変化は低濃度曝露ではわずかであり、その発癌プロセスは高濃度曝露のそれとは異なる。
悪性胸膜中皮腫のCT画像では、多くの症例に肺の線維化はみられない。しかしながら、アスベスト肺癌では高濃度曝露により起こる肺の線維化が先行病変として存在する。つまり、アスベストによる線維化プロセスの延長線上で発癌するのである。
この論文では
@アスベストによる病理組織学的な肺の線維化は石綿肺癌発生の必須条件であるのか。
A肺に線維化を起こす程度の曝露であれば、病理学的な石綿肺所見が無くても石綿肺癌が発生するのか。
Bどのような曝露でも石綿肺癌が発生するのか。
この3点に論点を集約されている。
なお、アスベスト肺癌はアスベストの種類、繊維のサイズ、吸引後の肺内滞留時間、病理組織的な石綿肺の有無、喫煙の程度などで規定されている。
石綿関連職種での高濃度アスベスト曝露を受けた作業者の肺癌発生リスクは高い。肺癌の発生には喫煙などの影響が複雑に関与するため、石綿肺癌の診断にはアスベストが発癌の主因とする根拠が必要である。従来、石綿肺は、アスベスト吸引による肺の線維化を先行病変として発生する肺癌、つまり石綿肺に合併した肺癌を指す。これは、アスベスト作業者に発生した肺癌のほとんどが石綿肺の病理所見である線維化が認められ、胸部Xs線でも石綿肺所見である不整形陰影を伴っていることを根拠としている。
石綿肺は高濃度のアスベスト曝露で発生するが、長期間の高濃度曝露だけでなく、短期間の超高濃度曝露でも発生する。また、肺癌の頻度は、使用するアスベスト繊維の性質によっても異なる。
病理学的石綿肺所見が石綿肺癌の判定には重要であるが、その所見のない高濃度曝露者の肺癌発生リスクは、累積曝露量が石綿肺を起こす閾値に達するまではみられない。線維化が高度に進行した石綿肺に、肺癌が併発する頻度は非常に高い。
肺におけるアスベスト発癌は、線維化に伴って現れ、線維化の程度に応じて多くなる。つまり、アスベストによる病理組織学的な肺の線維化が石綿肺癌発生の必須条件となる。しかし、最近の豪州でのクロシドライト(青石綿)曝露群の調査では、石綿肺のない場合でも曝露量に応じて肺癌のリスクが高くなることが示されている。
石綿肺癌の診断では、石綿肺の判定基準に左右される。石綿繊維や石綿小体が肺組織に証明されてもそれは過去のアスベスト吸引を示すのであって、決して疾患の直接的原因であることを意味しない。その理由として、アスベストはごく僅かながら一般環境下でも吸引しているからである。
アスベスト職歴のない肺繊維症に合併する肺癌を、石綿肺と過剰診断する可能性があり、注意を払う必要がある。また、石綿曝露歴があると、どのようなびまん性肺繊維症でも石綿肺と考えてしまう傾向がある。
肺内石綿繊維、石綿小体に関してはきわめて多くの報告がある。石綿繊維数や石綿小体数の定量は検査施設によって大きな違いがある。測定値にかなりばらつきの多い検査である為、単一測定施設での中央方式で行うことが望まれる。
喫煙はアスベスト発癌の重要な因子であり、肺癌に関しては相乗効果が示されている。これはコホート研究でも示されている。
繊維の表面が陰性に荷電されている青石綿は肺局所において吸着性の蛋白であるビトロネクチンを吸収する。これは喫煙時のタバコの癌原生物質を吸着し、相乗的に発癌リスクを高める。
石綿肺癌のほとんどは、先行病変に石綿肺が存在する。しかし、線維化をきたす程度のアスベスト曝露がなければ、石綿肺が無くても肺癌の頻度が増加することが示されている。つまり、石綿肺所見のない石綿肺癌の存在である。石綿肺癌を惹起する程度のアスベスト曝露に、喫煙という因子が加わることによって、このような例が発生する可能性がある。
石綿肺を起こさない低濃度曝露での発癌リスクの評価はきわめて難しく、発癌の増加を疫学的に証明したものはない。様々な曝露レベルの量などから推定して評価を行っているが、確実な方法ではない。実験レベルでは、アスベストはDNAや細胞増殖に影響を与えるが、疫学的証明のない現状からは、低濃度曝露では肺癌の超過リスクは無いとするのが妥当である。
石綿肺癌は下葉の末梢が好発部位である。石綿肺の病理組織学的な変化は下葉に強いが、そこに肺癌が多発する。これはアスベストによる線維化と癌化の関連を示唆するものである。
組織型は、腺癌が多いとする報告が多い。間質性肺炎に併発する肺癌は腺癌が多いからである。
石綿肺癌は石綿肺を先行病変として発症する為に、潜伏期間は少なくとも石綿肺の潜伏期間以上は必要となる。高濃度アスベスト曝露のほうが低濃度アスベストのそれよりも潜伏期間は短い。肺癌の超過リスクは、曝露を受けてから10年以内はみられず、30年でピークとなる。アスベストは曝露の強さだけでなく、曝露期間も大きなリスクとなっている。
産業の発達にこの物質は欠くことのできない資源ではあったが、それと引き換えに残された負の遺産は大きい。石綿肺癌は今後、発展途上国で問題となる。
・広島医学58巻 11号 P589〜597
アスベスト曝露による呼吸器障害 井内康輝
アスベスト(石綿)とは固有の鉱物名でなく、蛇紋石族と角閃石族の6種類の鉱物の総称で
あり、現在はWHOなどの公的機関では6種類に限って使われる名称である。
このアスベストが産業界で広く使われた理由は、優れた物性を持つからであり、過去
産業に用いられてきたアスベストの中でクリソタイルが全体の9割以上を占めている。
人に対するアスベストの危険性については1927年に、塵肺の一型である“アスベスト肺”
がイギリスで報告され、日本でも1938年に同様の報告がされていたが、それにもかかわら
ず、1995年まで使用禁止措置に至らず約30年間にわたり、膨大な量のアスベストが我が
国で使用されており、この影響が今後次第に顕在化してくると予想される。
アスベストは経気道的に肺内に吸引される。末梢肺胞腔に達したアスベスト繊維に対し
肺胞マクロファージは貪食しようとするが、鉱物繊維は消化できずアスベスト小体が形成されてしまう。一方、細くて長いアスベスト繊維は肺胞上皮に刺入し、これを貫いて間質に達する。間質内のマクロファージもアスベスト小体を形成してしまう。加えてさまざまなサイトカインの発現を通し繊維芽細胞の誘導と膠原繊維の産出を促し、間質線維化の所見を示すことになる。こうした線維化は肺胞レベルから、まずは呼吸細気管支周囲からはじまるのが、アスベストによる変化の特徴である。
塵肺症としてのアスベスト肺は、高濃度のアスベストに曝される職場環境での労働者に認められる。
こうした塵肺症と診断されるレベルに至らない肺の線維化は高い頻度で認められ、肺癌発生あるいは中皮腫発生リスクの指標となることが考えられる。
中皮腫とは、漿膜の中皮細胞から生じる悪性腫瘍である。従来、この腫瘍の頻度は低いものであったが、アスベスト鉱山の労働者など、疫学的にアスベストへの曝露との因果関係が明らかにされている腫瘍であり、中皮腫の死亡率のきわめて高い疾患である。
この中皮腫の発生部位の分布はこの文献によると、圧倒的に胸腔が一番多い。中皮腫は病理学的にびまん型と限局型で分けられ、この後者の限局型とされてきた腫瘍の多くは細胞レベルで特異な所見を示すことより中皮細胞とは異なる由来をもつ腫瘍と考えられること、患者にアスベスト曝露歴が見られないことなどにより中皮腫とは異なる腫瘍概念とされてきた。
組織学的には様々な所見があり、中皮腫の適切な病理診断はかなり難しい。しかしながら、免疫組織化学的染色により中皮腫ではcalretinin、WT-1、thrombomodulinなどが陽性で、CEAが陰性である事により9割以上の例が判別することができる。
アスベストによる線維化に随伴して生じる細気管支上皮あるいは肺胞上皮の増殖を基盤とするという考え方が従来は有力であったが、明らかなアスベスト肺を示さない場合でもアスベスト曝露者では、肺癌の発生リスクは高いことにより現在ではアスベスト繊維自体が重要であると考え方が有力とされている。
肺癌の原因は一般的に喫煙と考えられてきたが、一般環境においてもアスベスト曝露が広く認められるとすると、肺癌の約1割はアスベストへの曝露に関連した肺癌である可能性がある。
また、これまでの文献では、アスベスト肺に合併する肺癌の特徴として、下葉に多く、末梢型が多いとされており、アスベスト肺の程度が下葉につよくいと言う事実とあわせて考えると、肺癌も下葉に多く発生するとするのが妥当であると思われるが、近年の検討では、発生部位に特徴はないとする傾向にある。
アスベストによる中皮腫の発生などの傷害は、職業性曝露でしか起こりえないと考えられてきたが、アスベストを扱っていた場所の周辺住民における周辺住民における中皮腫の発生により、一気に一般生活環境での曝露によっても起こりうるかが、問題とされ始めている。これについては、現時点ではアスベストによる中皮腫や肺癌の発生についてまだ不明な点が多く、今後、一般生活環境におけるアスベストへの低濃度でも腫瘍が発生するという科学的な実証を積み重ねていく必要があるということである。
4.選んだ論文の内容と、ビデオの内容から、自分自身で考えたことを、将来医師になる目で捉えた考察
ビデオの内容ではアスベスト訴訟についての話であった。このアスベストという物質は前述したように、高度成長期の我が国を支えた。それは他国でも同じであったとは考えられるが、人体に悪影響を与えると報告されると他国は迅速な対応をしたが、日本では約30年間も国は対策もせず現場の人間は有害物質だとも知らずに使われ続けた。そして今現在、アスベストを原因とした肺癌や中皮腫を発症した人々が当時アスベストの危険性を隠していたとして訴訟を起こしている。
また、文献を二つ選び読んだが、アスベストについて文献により異なることが書かれていた、これはまだこの物質と肺癌や中皮腫との関係が明らかになっていないことを表しているのではないだろうか。早急な解決策を求める必要を強く感じた。
この出来事は、我が国の悪い体質によって生じた問題であり、なぜ迅速な対応をしなかったのかと自分の国とはいえ、大変遺憾である。
今回はアスベストという物質に焦点があてられているが、まだまだ他にも似たような物質はあると思う。長年、自分を含めた人類が地球を汚してきた代償が返ってきているように考えることも出来るのではないだろうか。
自分が将来医師になり、このような状況に出会うと仮定して、自分一人では何も出来ないかもしれない。しかしながら、今回のレポートを書くことにより、少しでも自分で考えることにより、なにかしらの行動が出来るかもしれない。
自分一人では何も出来ないかもしれないが、今の学生生活で色んな人々と知り合い交流することで人と協力し合うという能力を磨き、将来に活かせるように学生生活を無駄にしないようにしたい。
5.まとめ
去年は水俣病について書き、今年はアスベストについてレポートを書いた。どちらも公害といえばそうである。去年のレポートでも書いたが、高度成長期に急ぎすぎた日本に「環境」という概念がこういう問題により生まれたのではないだろうか。新しいものを創り出そうとするとき、それによって失われてしまうもの、傷つけられてしまうもののことまできちんと計算し、配慮できるということが、これからの開発に必要不可欠なのではないだろうか。
最後に、今回このレポートを書くにあたり、テーマは違うとは言え自分は留年した為に二回目のこのレポートを書くことを恥ずかしく感じる。この胸のうちを忘れずバネにして4年生に進級し、もう2度と同じ過ちを犯さないよう、この気持ちを心に留めることが出来るようにこのレポートを完成させた。